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4月 24, 2011の投稿を表示しています

麦の穂をゆらす風

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ケン・ローチのことを、映画監督の中の映画監督と賞賛する人は多い。ある巨匠映画監督が「ケン・ローチのためならばアシスタントでも何でも、手伝いたい」というほどの尊敬を集める映画監督である。それなのに、実際にはケン・ローチの作品を知っている人は少ない。彼の作品が好きだという人も、あまり聞いたことがない。それはなぜかというと、彼のの映画がどれも「あまりに本当のことを描いている」からなのだと思う。

「麦の穂をゆらす風」は、アイルランド闘争に身を投じる戦士たちの、悲劇的な運命を描いたもの。僕たちの日常的な皮膚感覚を破壊するほど厳粛な映画だ。アイルランドの美しい自然を背景に、進行するストーリーはおそろしいほどに厳しく冷たい。観客への優しい配慮などありません。僕は、この映画「麦の穂をゆらす風」を認めて、日本配給を行ったシネカノンの李鳳宇(イ・ボンウ)さんに感謝しています。☆1

祖国を救うという理想に燃えて立ち上がった仲間が、イギリス軍との凄惨なゲリラ戦を通じて、闘いに倒れていく。幼なじみの友人を、裏切り者として処刑しなければならない。闘争の派閥抗争の中で、兄弟同士が戦わなければならない。一体自分たちは何のためにこのような闘いを続けなければならないのか。

この映画にこめられた、人間への厳しい問いかけ。
祖国とは何か?人間とは何か?

僕たちが見慣れてきた映画とは、だいぶ違いますね。だいたい僕が好きな映画とは、手に汗握る誇大妄想的スペクタル。テーマパークで遊ぶように楽しむアクション活劇。うだつのあがらない主人公が、苦心の果てに仲間に助けられて活躍する冒険談。信じられないような美女と出会うラブ・ストーリー。笑えて泣けて、最後には予定調和のハッピーエンド映画。映画館をおとずれる観客は「現実を忘れるような楽しさ」を求めている。だから映画というものは、やはりこうあって当然ですよね。

何気ない生活の中の笑いやユーモア。どこにでもいるような人間への優しく細やかなまなざし。こうしたものも、ケン・ローチ作品の特徴です。しかし、結局は主人公たちはみな、どうしようもない問題をかかえていくだけ。最後まで家族を助けることができないアルコール中毒男(アイ・アム・ジョー)。仲間を見捨ててまで、自分たちの保身をはかる鉄道労働者たち(ナビゲーター)。幼なじみを処刑する運命を呪う、ゲリラの闘士(麦の穂をゆらす風)。