ビッグ・マジー

一時期、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート( RCA )と言う美術学校に通ったことがある。アニメーションの短期コースにもぐりこんで、リチャード・テイラーという老先生の下で研究をしていた。その時僕は、すでにNHKの職員だったので、研究と言ってもそれは勉強ではなくて、デザイン産業についての市場調査(フィールドワーク)のようなものだった。

テイラー先生はイギリス人らしい、へんてこなユーモアにあふれた優しい先生だった。BBCで放送していた、幼児向けの教育番組「ビッグ・マジー(写真)」は、彼の作品。この番組の「のほほん」とした雰囲気は、まさにこの先生の人柄から出たものだと思う。みんなからとても慕われていて、若い女子生徒たちも平気で「ディック!」「ねえ、ディックー!」と呼ぶ。老大家なのに、ファーストネームで呼ばれているのが、なんだか可笑しかった。

彼のユーモアのセンスは、本当に独特。例えばこんなことがあった。ロンドン市内でのフィールドワークの途中、僕と一緒にトイレで用を足していたとき(つまりディックと僕が "つれション"をしていたとき)ウィンクしながら、僕に向かってこんなふうに言うのだ。

「チャンスは絶対に逃さない。 ( Never miss opportunity. )」

トイレを見たら必ず用を足しておきなさいよ。ロンドンでは、なかなか公衆トイレも少なくて、次にいつ見つかるかわからないですからねという意味だ。僕は笑った。イギリス人のユーモアに触れた気がして嬉しかった。でも彼は、そう言いながらも本当は、「人生のチャンスも逃すなよ!」って言ってくれていたんだな。今はそういうふうにも思う。

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