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Showing posts from July, 2016

彼らが一番よくわかっている

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大学で映像の作り方を教える授業がある。授業といっても実習タイプなので、学生が各々自分の好きなテーマでショートフィルムなどを作る。 当然のことながら、手間をかける学生もいれば、手を抜く学生もいる。この辺は大人の世界と同じである。締め切りに間に合わなそうな学生は、あの手この手で時間短縮をはかる。ネットのアイデアパクリから、アプリのテンプレ流用、他人の作品へのただ乗りなど、いろいろとやる。 最終講評会で、その小細工を見抜けずに「おおー、このアイデア凄いなー」とか、「えらく手が込んでるね」などと褒めてしまったら、教師として恥ずかしいことになる。それに、たとえそれに気づいたとしても、ほかの学生の前で、それをズバリ突くのも可哀想かとも思う。 こういう時には、実にいい方法がある。 学生による投票、つまりライバル同志による多数決である。 不思議なことにこれが実に良い評定結果を出す。しかもまず間違うことなく「時間と手間をじっくりかけた労作」が上位に選ばれるのである。 手間暇かけて愛情を注がれた作品の価値。 それを、彼ら自身が一番よく分かっていたのだ。

ピーチュクやってます

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うちで10年以上も同居してくれているヤマブキボタンインコのココアちゃんは「ものまね」はしない。正確に言うと、こちらが期待するような「ものまね」はしない。「おはよう」とか「ココアちゃんげんきー」とか、インコらしいことは言わない。 世の中には、脱走して家に戻れなくなったが、交番で自分の家の住所が言えたために無事に帰宅したという天才型インコもいるという。その点、うちのココアちゃんは実利的な学習には興味がない。うちの家族らしい性格だ。 むしろ人間の言葉よりも、卵をかき混ぜる箸が「キンキン」と当たる音や、爪切りの「パチパチ」とはじける音といった変わった音に反応する。高音がよく聞こえるのだろう。電話のピロピロいう着信音や、AKBの歌声も好きなようだ。 機嫌の良い時にはひとりでよくしゃべる。「ピーチャラコーチャラピーチュク」と、いつまでも話している。それに寝言もよく言う。がく、っとなりながら「ピチョピヨ」とか言ってる。意味はわからないが、やっていることは人間と同じではないか。 おしゃべりなのに話が通じないというのは残念だ。だが、だからこそ平和なのだ。たとえ何かの悪口だったとしても気にならない。おかげで10年間ケンカしたことはない。てか、ケンカになりようがない。

みんないなくなった

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うちの大学では、学生さんのための食堂や休憩コーナーに、こんな感じの可愛らしいイスが置かれている。でも「いまの学生さんは恵まれているな」という感想を持つのは大人ばかりで、当の学生さんたちと言えば、イスのデザインなんぞよりもおしゃべりや食事に夢中だ。 もちろん彼らも時には「うちの大学は環境がいい」とか言ってくれるけれども、正直のところ周囲の環境を楽しんだり眺めたりするよりも、ゲームやアニメ、そして時に人間関係など、夢中になることがたくさんあって当然。彼らの頭の中は、自分と友達との関係や遊びのことなどでいっぱいなのだろう。それが思春期というものだ。 キャンパスの花壇の花を眺めたり、食堂のイスの写真を撮ったりしている暇人は、高齢者の私くらいだ。そして特に今日はこのイスたちもひどく寂しそうだ。肝心の主役である学生さんたちは、ポケモンを探してみんなどこかへいなくなってしまった。

手仕事

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乾燥機から出てきた家族のシャツ。ボタンが2つ並んでとれてしまい、以前にとれたボタンと合わせて、3個足りなくなってしまった。こうなると、似たようなボタンを探してごまかすというわけにもいかない、という結論となった。 色はちょっと違うけど、シャツのデザインには合いそうなボタンを買ってきて、取り付けることになった。取り付け担当は、今日、家族の中で一番時間のある、僕ということに。(と言っても論文投稿の締切があるのですが、とりあえず家にいたので...) 実はボタン付け作業は、嫌いではない。指先に集中して行う細かい作業は、基本的に好きな方だ。とはいえ、袖口も入れて12個ものボタンを、一度に付け替えるのというのは、やったことない。もしかすると無謀な挑戦だろうか。 その作業の結果はというと、 とても楽しかった! 案の定、途中で疲れてくると、糸が絡まったり、針で指先をつついたりしたけれども、基本的には、針仕事というのはとてもいいものでした。何か贅沢な時間を過ごしたような気がする。 しかしまあ、針仕事なんて、こんなことでもない限り滅多にやらないなあ。今日直したシャツだって、もとの糸の穴を見るとあまりに整然としていて、これは機械で取り付けたもののようだ。でも昔は、家族の衣類を仕立てたり、修繕したり手作業をしたものだよね。 うん、ボタン付け、またやりたい。

Siriにお願い

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先日の集中豪雨のせいで、家族のアイフォンが水浸しになってしまった。カバンの底に入れたたまだったところに雨水が浸水したのだ。その日は、そのまま乾燥させるだけにして、翌日の朝から、救出作戦をはじめた。 液晶画面にまだらなシミが見えるのだが、幸いなことに電源は入った! この機を逃さぬよう、慎重に作業を進める。まずはiCloudの容量を増やして、WiFiからのバックアップをしつつ、一方でここ2ヶ月ほどの写真データを救出。一時間ほどの作業の結果、ほとんどのデータが無事だった。何と今はLINEのやり取りも復帰可能なのだ。 こういうことがあると、僕たちがいま、本当にものすごい世界に生きているということがわかる。一人一人が、住所録、メール、メモ、日記、写真、音楽、動画など、あらゆるデータを身にまとって暮らしている。しかもそのデータを端末から端末へ自由に移動。この技術はまさに人類の偉業である。ジョブスさんに改めて感謝の意を表したい。 ここからが笑える話。データ救出作業の途中でホームボタンの接触がちょっとおかしくなった。どうやら「押しっぱなし」状態、つまり「Siriさん」がONのままになってしまったようなのだ。そのために、家族で何か話したり物音がするたび「Siriさん」が「なになにを調べます」と言ったり、どこかに勝手に電話をかけたりする。 そのたびに大笑い。いや「Siriさん」には笑わされました。2001年宇宙の旅の「HALさん」を思い出すような、ちょっとSFぽい展開だった。 しかし待てよ。考えてみればだ。「Siriさん」に「Siri、バックアップをしておいてね」と頼めばよかったのか。いやまさかそれは無理? いやいや、それもそのうちに、当たり前にできるようになるのだろう。

どこ吹く風

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大学同窓会の打ち合わせで田町まで出かけてみると、今日はこれまでになく涼しい日であることに気づいた。蒸し風呂のようだった湿気もなく、街を歩いていて気持ちが良い。 ということで、ちょっとだけ銀座に立ち寄ることにした。東銀座の地下道では書道展をやっていた。三歳の女の子の手による「くも」という文字がのびのびと浮かんでいて、清々しい気持ちになった。地下道の天井に青空が広がるようなイメージが見えるようではないか。 銀座四丁目で地上に上がった。するとそこで展開していたのは、なんと二人の都知事選候補の鉢合わせという、ちょっとした修羅場だった。真っ黒な人だかりと喧騒に囲まれて、一気に暑苦しい現実にひき戻された。いつもは、自由で開放的な気分にさせてくれる歩行者天国が、街頭演説や人だかりで台無しだ。 なぜ僕たちは、こうした騒ぎにこうも興奮して巻き込まれなければならないのか。静かにじっくりと取り組むべきことが、ほかにたくさんあるのだろうにね。そのまま人混みを避けるように歩いて行くと、大好きな銀座長州屋さんの前に出た。 店先を見ると、どっしりとした花鉢が二つ置かれている。長州屋さんのウィンドウの大鎧と並んで、どこ吹く風、という顔で風に揺れていた。やっと普通の空気に戻った。