迷言366日

境港・水木しげるロードにある、水木先生のブロンズ像

「一日一言」とか言って、365日の「日めくり形式」にまとめた本がある。

私は、結構このタイプの本に弱い。書店で見かけるとつい買ってしまうのがこの手の本だ。1日に1ページだけ読めば、それで頭が良くなりそうな気がするもんね。だから、家にはさまざまな「○○365日」とか「一日一言・○○○」といった「日めくり本」が積まれている。

そのくせ、それも毎日読み通したことなど、まず無い。だいたいが、買った日付から読み始めて、翌月にはとびとびになり、あっと気づけば半年経過。たまに思い立って、その日を開くと、それは昨年もたまたま開いた同じページだったりして。うちの「日めくり本」は、だいたいがこんな感じで、まだらに扱われていると思います。

だが、昨年ついに、ある「日めくり本」を一気に読み通してしまった。一日一話と読み切りになっているのに、あまりに面白くて、次のページを翌日に持ち越すことができない。トイレに持ち込んだら最後、20日間分くらいがあっという間。それどころか、トイレの中でウフフ、ヒヒヒと笑いが止まらなくなってしまう。電車の中で読んで、笑いをこらえられずに、向かいの乗客の方に怪しまれた。

その本は「水木サンの迷言366日」という。

ノンフィクション作家の大泉実成さんがまとめた、水木しげる先生の「名言集」なのです。水木先生の著作や、雑誌連載の原稿などから、選りすぐりの「名言」を、一日一言形式にならべた、大変な労作です。それをあっさりと「迷言」と言い切るところが見事。選ばれた内容も、編集も、ちょっとした注釈も見事です。366の「迷言」を読み終えると、なんとも言えない幸福感と脱力感を同時に味わうことができます。

例えば、12月19日には次のような一節があります。失礼して、一部紹介させていただきます。昨年の暮れにトイレで、うっかりこのページを開き、ウヒヒヒヒヒ、とやって家人に怪しまれました。この一節の原典は、「妖しい楽園 ー 水木しげるができるまで」です。

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(戦争中、坊主になると女にもてると聞いて)

僕は軍隊が終わったら、坊主になろうと思って、日曜日の外出のとき、
岩波文庫の『佛説四十二章経』なるものを買って読んだ。
そのなかには、眠りを「睡魔」と称し、
いかにも眠らないのが美徳みたいに書いてあるので、極めて不快になった。

次いで、宗教関係は楽な生活ができると思い、今度は『新約聖書』をひらいてみた。
「色情を抱きて女を見るものは、その目をえぐり捨てよ」とあり、
これもおどろいてやめた。いくら目があってもたりないと思った。
[ 後略 ]

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こんな感じ。
大泉実成さんいわく、水木先生の「人生におけるけたはずれの経験値」からあふれ出た「名言」の数々を集めたのだという。「名言」を並べてみた結果、けたはずれに多彩で奇抜な内容となり「迷言集」となってしまった。偉大なる水木哲学を、一気に斜め読みさせていただける貴重な本です。今後は「日めくり本」としても、何度も繰り返しめくらせていただきます。大事にさせていただきます。


「水木サンの迷言366日」は、「本日の水木サン 思わず心がゆるむ名言366日」( 2005年 草思社刊行 )を文庫本として改題したものです。なぜか最初は「名言」だったんですね。私はどちらも持っております。366日なのは、4月30日があるから。

編集の大泉実成(おおいずみ みつなり)さんは「世界は水木を中心に回っている」というほど、「水木原理主義者」を自認する、水木研究の第一人者。水木先生との共著もあります。

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