富に至る道

貧しいリチャードの暦

我が家では、新年になってからカレンダーを取り替えます。

元旦の本日は家中のカレンダーが新しくなりました。家長である我輩は、今年は二階のトイレのカレンダーを替える栄誉を与えられました。二階のトイレに掛けられるカレンダーは「こどものべんぞうさま(便蔵さま)」カレンダーと言って、トイレの中で、ゆっくりとクイズに答えて頭が良くなるというもの。名前からいって、運勢が上向きになりそうなもの。新潟の「ぴいくらぶ」という、とてもユニークな企画集団によるものなのです。よかったら、一度ご覧下さい。

ところで、独立前のアメリカで、政治家として活躍したフランクリン(100ドル紙幣に肖像が描かれている)は、若い頃は印刷屋の職工として身を立てていました。いまではなくなってしまった「植字」という作業がとても早く、文章に習熟して文字も良く知っていたので、とても優秀な職工でした。さらに、大変な倹約家であり勤勉な性質であったために、どんどん出世をしていくのです。

そしてフランクリンは、51歳になる1857年まで、25年間も暦を発行していたのです。当時、暦を出すということは、自然科学や数学にも通じていなければならず、またそれなりの社会的地位も必要だったことでしょう。フランクリンは、その暦に「格言」をつけることにしていました。タイトルは「貧しいリチャードの格言」といいます。フランクリンは、この暦を「リチャード・ソーンダース」という偽名で出版しておりました。それなので、暦につける格言も、自分のものとしてではなく「貧しいリチャード」が言ったものとしておいたのです。そうしておきながら、自分でそれを引用したりして涼しい顔。

それというのも、フランクリンが自伝の中で述べているように「人にものを教えるのには、教えているような風をしてはならない、その人の知らぬことでも、忘れたことのように言い出さねばならない」から。フランクリンは自分ではものを知らないふりをするために、こんな手の込んだことをしたのでしょう。しかも、自分自身はかなりの資産家になってしまったので、反感を買わないようにして「貧しいリチャード」の格言ということにしたのですね。

さらに手が込んでいるのは、フランクリンが最後に出版した暦につけられた文章です。タイトルは「富に至る道」といいます。この「富にいたる道」が「貧しいリチャードの格言」(☆1)の25年分を集大成したものというところが変でしょう。この文章は、彼の格言の中でも、おもに「勤勉と倹約」について述べたものを並べたもので、だいたい、以下のような格言をつなぎ合わせて並べたものです。

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「ものぐさは、錆と同じで、労働よりもかえって消耗を早める。一方、使っている鍵は、いつも光っている」
「時間の浪費こそ、一番の贅沢」
「時間の失せものは、間違っても見つかるためしなし」
「勤勉な者には、神、何物も惜しみ給わず」

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要するに、なまけて時間を浪費したりしてはいけない。朝寝をしたりすることは、人生にとって最大の損失である。また、安いものだからといって、必要でもないものを買ったり、見栄で良い洋服を来たり、おいしい食べ物を食べたりお茶を飲んだりすることは、愚かなことである。さらに、見栄で浪費した損失を、借金で補うなどというのは愚の骨頂。質素に、実直な生活を営みなさい。こういうようなことを教えている。まるで、徳川家康と松下幸之助さんを足したような、人生訓が並んでおります。

よりによって、元旦に読むとは。
我輩には、耳がいたい話ばかりではないか。

でも、どうやら、フランクリンさんには、ある確信もあったみたいです。つまり、こんな立派な教訓を書き起しておいたって、誰もそれに従おうとはしないだろうということ。よほど、できの良い若者だけが、これらを読んで目を覚ましてくれればよいのであって、大方の人は、自らの欲望や怠惰におぼれていくのを止める事はできないと知っているのだ。

「貧しいリチャードの格言」は、一応話は聞くものの、それを実行にうつすことなど出来ない、我輩のような「怠惰な連中」に向けたものなんでしょう。だからタイトルも「貧しいリチャードいわく」ということになるのですね。どうせ、そんな話誰も信用しないだろうから。あっ、言い過ぎですか?違っていたらごめんなさい、フランクリンさん。

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☆1:Poor Richard, 1739. An Almanack for the Year of Christ 1739. Benjamin Franklin Library of Congress Rare Book & Special Collections Division
http://www.loc.gov/exhibits/treasures/franklin-printer.html

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