人がどう思っているかなんて
今日、森鴎外の「阿部一族」を読んだ。
高校の教科書で知って以来、何度めかと思うのだけど、まるで初めて読んだように面白かった。自分が老境に近くなったので、同じ小説を読んでも、以前とは感じかたが違うのかもしれない。
この小説に出てくる人々にとって、名誉ある殉死を遂げるということは、どういうことだったのか。この小説では登場人物の心情が細やかに表現されていて、実に同情させられる。
殉死。それは、大恩を受けた主君への忠誠によるもの。しかし一方では、家族の名誉を守り、生活のための処遇を得るためでもある。実母や妻が生きていくための計算。
そして意外にも重要なのは周りの見方なのだ。「主君から知遇を得た自分は、周りから殉死すべきと思われているであろう」という思惑。これが殉死の決定打となる。もしこれで、殉死しなければ、その後きっと周りからのバッシングに苦しむことになるから、死んだほうが良い。こういう判断。
これって、現代のサラリーマンの気持ちに近いのでは? まわりはきっと「あいつは今夜残業すべきだ」と思う。だから残業。家族は「僕の年金をあてにしている」のだろう。必死で年金を払う。こうしたことを思いつつ、必死に働くのが、僕たち現代の家臣団。サラリーマンという種族なのか。
周りがどう思っているかによって行動する。他人の目線に合わせて価値観を合わせるのは現代人も江戸の人も一緒。人生の最後を迎える時、人は「もっと自分の好きなように生きれば良かった」と振り返ると聞きました。でも、なかなかそうは出来ないのね。僕たち、日本人って。