グーグルのスローガン

以前日経新聞で、「大転換」というなかなか素晴らしいシリーズが連載された。2009年6月だったと思う。その第3部「揺らぐCEO神話」の中で、古いタイプの企業統治者がによる失敗事例がいくつか挙げられていた。

カリスマによる企業統治というスタイルは、現代社会においてはもう機能しない。2000年ビル・ゲイツ氏MS退任、2001年ジャック・ウェルチ会長GE退任、2002年ルイス・ガースナー氏IBM退任。ジェフリー・イメルト会長などの、有能な実務家タイプの社長が現実と向き合う経営を行い、GEは堅実さを増したが、カリスマ経営を続けたAIGやリーマン・ブラザーズは崩れ去った。重圧に苦しむハワード・ストリンガー ソニー会長兼CEOは、ついに「ソニーに社長は必要か?」と発言。

現代における巨大企業の経営者は「みな一様に病んでいるのでは?」というような内容だ。しかしその後、このシリーズ記事は、グーグルだけは別格扱いをする。以下のような美しい文章が印象的だった。この記事は、切り抜いて手元にある。それくらい感動的な内容だ。
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Google社員のモチベーションを支えているのは,天才創業者と世界規模の「情報の革新」プロジェクトに参加する権利だ。ストックオプション(株式購入券)や報酬ではない。
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ラリー・ペイジ氏やセルゲイ・ブリン氏のような経営者は天才技術者であると同時に、ITの伝道師でもある。こうした創業者に率いられたグーグルは、つまり「利益などは目じゃ」なくて「革新的プロジェクトの誇り」がすべてという、現世においては奇特な求道者。慈善団体のように無欲な天才集団がグーグルなのである。彼らウルトラ情報革命の先導者による、組織ガバナンスは、以下のような悩みとは無縁。企業統治に苦しむ以下のような経営者の悩みは皆「過去の遺物」のような統治理念に起因する。

しかし、本当にそんなうまい話はあるものか?ハワード・ストリンガー氏がうまくいっていない人で、セルゲイ・ブリン氏や、森田昭夫氏はうまくいった人と簡単に分類するのも、どうかなーと、思いませんか?経営というのは、うまくいくときはうまくいって、うまくいかないときはうまくいかない、というだけじゃないのかな。

そして、この1年間続いている、グーグルの人材流出現象。グーグルもやはり普通の会社、グーグル社員もやはり普通の会社員だったのか。すべての組織は劣化する。どんな素晴らしい会社にも、経営ビジョンの劣化、統治機能の衰弱、利益拡大率の鈍化といっった問題が訪れる。それは、あのソニーの現状を見れば明らかだろう。ソニーもやはり普通の会社か。

「ストック・オプションよりも情報革命による世界的貢献に身を捧げよう」という勇ましいスローガンは期限付きだったということ。ストック・オプションや報酬など眼中になかったはずの社員たちも、やはりストック・オプションや報酬が重要であるとことに気づく。こうした「普通の社員」を擁するグーグルに、次なる人心掌握の秘策はあるのだろうか?


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