2011年4月25日月曜日

麦の穂をゆらす風

Ken Loach [ Ozgurgerilla ]
ケン・ローチのことを、映画監督の中の映画監督と賞賛する人は多い。ある巨匠映画監督が「ケン・ローチのためならばアシスタントでも何でも、手伝いたい」というほどの尊敬を集める映画監督である。それなのに、実際にはケン・ローチの作品を知っている人は少ない。彼の作品が好きだという人も、あまり聞いたことがない。それはなぜかというと、彼のの映画がどれも「あまりに本当のことを描いている」からなのだと思う。

「麦の穂をゆらす風」は、アイルランド闘争に身を投じる戦士たちの、悲劇的な運命を描いたもの。僕たちの日常的な皮膚感覚を破壊するほど厳粛な映画だ。アイルランドの美しい自然を背景に、進行するストーリーはおそろしいほどに厳しく冷たい。観客への優しい配慮などありません。僕は、この映画「麦の穂をゆらす風」を認めて、日本配給を行ったシネカノンの李鳳宇(イ・ボンウ)さんに感謝しています。☆1

祖国を救うという理想に燃えて立ち上がった仲間が、イギリス軍との凄惨なゲリラ戦を通じて、闘いに倒れていく。幼なじみの友人を、裏切り者として処刑しなければならない。闘争の派閥抗争の中で、兄弟同士が戦わなければならない。一体自分たちは何のためにこのような闘いを続けなければならないのか。

この映画にこめられた、人間への厳しい問いかけ。
祖国とは何か?人間とは何か?

僕たちが見慣れてきた映画とは、だいぶ違いますね。だいたい僕が好きな映画とは、手に汗握る誇大妄想的スペクタル。テーマパークで遊ぶように楽しむアクション活劇。うだつのあがらない主人公が、苦心の果てに仲間に助けられて活躍する冒険談。信じられないような美女と出会うラブ・ストーリー。笑えて泣けて、最後には予定調和のハッピーエンド映画。映画館をおとずれる観客は「現実を忘れるような楽しさ」を求めている。だから映画というものは、やはりこうあって当然ですよね。

何気ない生活の中の笑いやユーモア。どこにでもいるような人間への優しく細やかなまなざし。こうしたものも、ケン・ローチ作品の特徴です。しかし、結局は主人公たちはみな、どうしようもない問題をかかえていくだけ。最後まで家族を助けることができないアルコール中毒男(アイ・アム・ジョー)。仲間を見捨ててまで、自分たちの保身をはかる鉄道労働者たち(ナビゲーター)。幼なじみを処刑する運命を呪う、ゲリラの闘士(麦の穂をゆらす風)。

いかがですか?
ケン・ローチ作品で、こんな現実の人々に出会ってみるのは。
「本当のことを描いている」厳粛なる作品を通して。
哲学書コーナーの本を読み歩くような感じで。

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☆1:李鳳宇氏の著書「パッチギ!的-世界は映画で変えられる」に、日本配給の経緯が詳しく書かれています。


2011年4月17日日曜日

本当のことは歌えない

「アイルランドに平和を」という曲をご存知ですか?ポール・マッカートニー&ウィングスが1972年に発表したシングルです。当時の日本のヒット・チャートでも一位となりましたが、あっと言う間にBBCや各メディアで「放送禁止」となってしまいました。

実にポールらしい、美しいメロディとポップなサウンドの楽しげな曲。当時は無邪気な中学生だった僕は、「なんで放送禁止なの?」って不思議に思ったものだ。その後いつの間にかレコードでも聴けなくなって、iTunesで検索しても見当たらないので、もう二度と聴けないのかと残念に思っていた。

ところが先日、NHK時代の旧友から、ポール・マッカートニー・コレクションシリーズ」のCD『ワイルド・ライフ』に、ボーナストラックとして収録されている! ということを教えてもらい、無事に「20年ぶりくらいの再会」をはたしました。うれしかったー!そして感動。

このヒット曲について、皮肉屋のジョンは「歌詞が幼過ぎる」とコメントしたそうだが、いやいや、本当はその「幼さとシンプルさ」こそ素晴らしい。ジョンだって本当は、分かっていてコメントしたのに違いない。

血の日曜日という悲惨な事件を知って衝撃を受けたポールの渾身の作品。特にメロディーと歌詞が一体となって盛り上がっていくところがすごい。シンプルで幼い歌詞だからからこそ、ポールの本当の真心を感じることが出来る。感動的なプロテストソングだ。

僕たちが出来ることは、シンプルな心で純真に歌うしかないんじゃないのかな。本当に本当のことを。忌野清志郎さんがもし生きていてくれたら、いまどんな歌を作ってくれただろうか。ぜひストレートでワイルドな歌詞で歌ってほしかったな。

2011年4月3日日曜日

チェンジズ

3月11日以来、このブログはほったらかしでした。

年度末の仕事や、映像制作のために忙しかったのだ。でも、忙しかったというよりも、なにも書きようがなかったというのが正直なところだな。茂木健一郎さんが書いているけど、脳回路の輪番停電になってしまったようだった。世界はすっかり変わってしまい、僕たちの生活のありようを変えてしまい、言葉の価値までが変わってしまった。もう、二度とかつてのような価値観で、ものを考えることはできない。

僕たちの世界はすべてが変わってしまった。

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チェンジズ ( デビッド・ボウイ )☆1

川に浮かあぶくはたえず変化していく
だけどけして流れを離れることは無い
永遠ではないこの世界は僕の視界から
こぼれ落ちるけど日々はいつも同じさ

<中略>

もうすぐ僕たちは年をとっていくのさ
時の流れは僕たちをみな変えてしまう
でも時を遡ることなんかできないのさ

(無理矢理訳したので間違ってたらごめん)

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自然界に生きる人間としてのありようには変わりがない。でも、もう一度考え、すべてを問い直すときが来たのかもね。

たった40年間という短い時間に、僕たちが享受した、ひとときの経済的繁栄。でも、そのつけは甚大。放射性物質はこれから100年もの間、僕たちの子供たちの頭上に降り注ぐ。その罪をつぐない日本の自然をもとに戻すために、時を遡ることはできない。

雄大な時間という川の流れは変わらないけれども、僕たちというあぶくは形を変えつつ進むしかない。いつかもうひとつの別の答えを見つけるまで。チェンジしなければ。

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☆1: Changes ( David Bowie )

I watch the ripples change their size
But never leave the stream
Of warm impermanence
So the days float through my eyes
But still the days seem the same

・・・

Pretty soon now you're gonna get a little older
Time may change me
But I can't trace time
I said that time may change me
But I can't trace time