電気スタンド


爆笑王と言われた桂枝雀師匠に「道具屋」という落語がある。

ズブの素人の男がにわか古物商となって縁日に露店を出す。扱っている商品はみな怪しげなものばかりなのだが、寄って来る客はそれなりに玄人で真剣顔。そこからの男と客との攻防が抱腹絶倒に面白い。この面白さは、電車の中で聞くのが危険なほど。

切れないノコギリ、抜けない短刀、擬物の掛け軸、二本足の電気スタンド。並べた商品は、どれもこれも使い物にならない半端もの。男自身は骨董品の価値などわかっていないのだが、シロウトだけに真剣に商売をする。

電気スタンドは、本来は脚が三本なければ立たない。男はそれを「塀さえあれば寄りかかって立ちまっせ。あんさんの家には塀がありまっか?」と無茶苦茶な理屈で売りつけようとする。インチキの押し売りだ。

だが待てよ、この男の商売、
やってはいけないことなのだろうか。

彼は傷のあるものや立場の弱いものたちを、一生懸命にカバーしようとしているだけではないか。店の商品たちすべてに、分け隔てなく愛情を注いでいる。考えてみれば、商売人として当然なことだ。

最近は、ちょっとした傷のある野菜も果物も売れない。何かにつけ、相手のミスや問題につけ込んで非難の応酬となる世情も息苦しい。枝雀師匠の話から、この男が飛び出して来てくれたら、世の中変わるかもしれない。

「ハート印のついたニンジンね、買いなはったら幸せになりまっせ」

「お尻のヘコんだ桃ね、めっちゃ甘いで。今だけでっせ買いなはれ」

こんな感じで、なんでも売りさばいてくれるかも。



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水彩画:ポーランド南西の街チェシンの商店街

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