ラジオを直す少年
若き日の、ファインマン先生 |
最近の電機製品は、たとえボディを開けてみたところで、問題のありかはわからない。配線や部品もみんな一体になっちゃってるんだし、手の出しようが無い。結局は丸ごと買い替えるかしかないということになる。
リチャード・ファインマン先生が子供だった頃、アルバイト先の知り合いから呼び出された。ラジオがものすごい雑音を出すので修理してほしいという。リチャード少年は機械を直してしまう少年として有名だったのだ。
「ガーガーピーピー」いってる、ラジオの前を行ったり来たりしながら、少年は長い時間を考え続けた。
これは、真空管がめちゃくちゃな順序で熱せられるからに違いない。アンプも熱くなって、真空管もすっかり受信用の準備が出来ているのに、何も信号が入ってこないか、回路に逆に電流が流れているかだ。
そう考えた少年は、真空管をすべてはずして、順序をバラバラに入れ替えて見た。すると雑音が嘘のように消えて、きれいな音が出るようになった。依頼主のおじさんは大感激して、この少年のすごさをあちこちで吹聴してまわり、少年の噂はさらに広まったそうです。とにかく「考えるだけでラジオを直す」のですから。
目に見えていることの意味を、とことんまで考え抜く。真空管の神秘的な光を見つめながら、その光の意味を知ろうとする。入り組んだ配線や部品を見つめて、その仕組みを思い描く。このようにして考えることこそが、科学する心の基礎となったのだ。のちに偉大な物理学者となった、リチャード・ファインマン先生。自分の少年時代をこのように振っています。☆1
現代の子供たちには、真空管ラジオの中を開けて見るチャンスなど、全くというほどないでしょうね。学研の「電子ブロック」ですら、iアプリになってしまったんですから。(買いました!)いまやすべてが、シミュレーション。なにもかもがデジタルデータとなってしまう時代。目で見て手で触れて考える、実物の回路など、もうどこにも存在しないんですから。
いまどきの学生に聞くと、恋人ですら実物よりもゲームの中のキャラクターのほうが良いという。ちょっと待ってくださいよ。彼女が何を考えているかなんて、よーく見て考えなければわからないよ。ラジオも人間も、実物として動いているんですからね。
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☆1:「ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)」岩波現代文庫
R.P.ファインマン著 大貫昌子訳 / 考えるだけでラジオを直す少年 より