文明の境界線


1974年、セブンイレブン1号店がオープン。1985年、エアコン普及率が50%を超えた。1995年には携帯電話の普及率が50%超え、2000年にはネット普及率も50%に達した。日本はどんどん便利な国になってます。

でもたしかにありましたね。コンビニもエアコンもない、携帯もネットもなにもない時代。僕の学生時代がそうでした。ついこの間のことです。別に誰も、不満はなかった。コンビニなんて知らなければ知らないで、それで別にかまわなかったんですよね。学生時代の一人暮らしはちょっと寂しかったけど。

これまで現代文明との接触を拒絶し続けて来た、南米の先住民族「ヤノマミ」。彼らはつい最近まで、原初以来変わらない、森の民としての生活を守り続けて来た。シャーマンである、シャボリ・バタは遠い世界に住む精霊と語り合う。人々は森との共生を続け、狩猟による生活の掟を厳しく守る。誰も富を蓄えることはせず、必要なだけの食物を集めてそれで満足する。なにも背伸びをせず自然と共生し、家族や仲間と暮らす、ありのままの生活。

NHKの国分拓ディレクターと、菅井禎亮カメラマンは、ワトリキというヤノマミの集落に150日間におよぶ滞在取材を敢行。その取材の成果はNHKスペシャルと、国分さんの著書「ヤノマミ」に記録されています。

その「ヤノマミ」を改めて読んで驚きました。国分さんたちの滞在中にもヤノマミの生活には、ある変化が始まっていたというのです。先住民保護区への教育政策。優秀なヤノマミの青年に高等教育を施す試みが行われていたのです。何人かのヤノマミの青年が、保護区の外の町に出て現代文明の一端を体験する。そして彼らは少しずつ、文明の道具を持ち帰ることになる。

NHKクルーが帰国する直前、ワトリキのシャボノ(巨大な円形の家)では、DVDの鑑賞会までが行われた。上映されたのは「キングコング」。もちろんそれに飛びつくのは、若者や少年少女ばかり。長老たちは顔をしかめて苦言を呈する。「ナプ(劣った人間)になってしまうぞ」しかし、誰もみなが、この流れはもう止められないと知っているようでもある。

コロンブス以来、南米の先住民たちの生活は激変した。現代文明との出会いは、彼らののどかな生活を奪い、息つく暇のない時間の流れに彼らを投げ込んだ。天然痘や梅毒などの病気やによって失われた部族もあった。その中で、ヤノマミだけは、いままで、こうした「文明との接触」とは無縁の生活を守って来たはずだった。しかし、その最後の境界線も少しずつ崩れて落ちてしまうのだろうか。

しかし考えてみれば、僕たちだって同じだ。
僕たち自身の生活の境界線だって崩れ続けている。
より便利なほうへ。より楽しいほうへ。
すべてはより快適な生活へと流されて行くのだ。

電車の中。DSにかぶりついてゲームに熱中するサラリーマンを見て思った。
僕たちは文明に出会い、精神の境界線を失ってしまったヤノマミなのかも。

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