これは見せられない

じっとタイミングを待ってるアジサイの鉢

朝日新聞の地域総合欄に「光の国から」という連載コラムが続いていて、毎回とても楽しみにしている。「光の国」というのは、あのウルトラマンの故郷のことである。

子どもたちは、それがどこか遠い銀河の向こうにある、ウルトラマンたちの国と信じているのだろうが(私も信じていた)ウルトラマンの故郷とは、実は円谷プロダクションのことにほかならない。特撮の神様、円谷英二先生のもとで育ったスタッフへのインタビューをもとにしたこの連載、実に面白い。

テレビ界に「昭和の大特撮ブーム」を湧き起こした「ウルトラQ」シリーズの制作秘話。第一話として撮影が進められて「マンモスフラワー」のこと。(☆1)この回の撮影、編集作業が終わっての「試写会」での出来事。これを僕はとても他人事とは思えない。

試写が終わって、円谷英二監督は静かに言ったという。
「これは客には見せられない」

この試写会の様子って、いやーもう想像したくない。僕自身、これに類する体験は数知れずある。なんとか頑張って撮影やら編集やらやってきたけれども、監督からNGを出される。お客さんに見ていただく水準に達していない。つまり「ボツ」ということだ。

テレビの現場にしても、ライブ・コンサートの現場にしても、こういうことってある。ほんとに恐ろしいことなのだけど、これは現実。どんなにスタッフが徹夜で頑張ったものだとしても、ダメなものはダメ。即やりなおし。ただちにやり直し。

しかし、不思議なもので、こういう修羅場をくぐって、やり直しをした作品というものは、後になってみると、思い入れの深い傑作になっていることも多い。お客様というのは、作品の途中過程は知らずに評価するものだが、スタッフとしては、こういう不幸な経緯のある作品ほど忘れがたいものになる。不思議なものだと思う。

このへんのことを、いまの学生さん達に教えてあげたいな、と思う。でも、一方で無理っ、とも思う。演習授業の課題で「やり直し」とか、卒業研究で「この論文書き直し」なんて言う事は、よほどでない限り出来ない相談。いまの学生さんは「ダメだし耐性」が弱く凹みやすい。こういう厳しい物言いは通じない。とても気を使わなければならない時代なのだ。円谷監督がお元気だったら、どのような言い方をするだろうか。

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☆1:第一話は「ゴメスを倒せ」ですよね。



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