インランド・エンパイア

アンティークのジョウロ

デビッド・リンチ監督に「インランド・エンパイア」という作品がある。実はまだ見た事がない。しかし監督の著書に、その製作過程のいきさつや撮影途中の裏話などがたくさん載っていて、それがまた実に面白いので、なんだか既に見た映画のような気がしている。変な話だけど、僕はただこの映画の内容を勝手に創造して楽しんでいる。

いずれ、アマゾンからDVDが届いたら、それを見なければならない。おそらくこれまでと同様に、こちらが見る前に勝手に想像した映画と実際の映画との間で、揺さぶられるのだろう。監督の場合、これはすごい!という時と、なんじゃこれという時の落差がすごいのだ。「マルホランド・ドライブ」の時は、映画館を出るときにはほとんど乗り物酔いの状態で這い出るようだったぞ。

そもそも「インランド・エンパイア」というタイトルは、主演のローラ・ダンのご主人の出身地とのこと。本来全く意味をなさないこの地名から霊感を受けた監督は、この映画を作るべき使命に目覚めたのだという。まったく訳が分からない。映画の宣伝も牛を連れていたりして謎だ。

いつも、デビッド・リンチ監督には一方的にやられている。今日はこちらから勝手に攻めることにしても良いだろうか。新年だしね。

王陽明の「良知を詠ず四首」の詩の中に「自家の無尽蔵を抛却し(うちすてて)門に沿い鉢を持して貧児に倣う」という言葉がある。自分の心のうちに「良知」という。つきることのない宝庫を有しているのに、それを知らず、家々を廻って物乞いするように外物をもとめることを現している。(安岡正篤 人生信條より)

「インランド・エンパイア」という地名は「うちなる心の世界」を喚起させるものがある。僕の勝手な解釈では、自分の心の中にこそ、豊穣なメッセージにあふれる内的世界があるのだということを伝えているような気がする。デビッド・リンチ監督の映画はおそらく、ぜんぜん違うんだろうけどね。


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