草鞋をつくる人


列車強盗といえば、西部劇の定番である。しかし、強盗団に「列車から降りろ」と呼ばれて出てきたのが、刀を差して、草履(ぞうり)をはいた侍だったら。それは西武の強者ゴロツキどもも腰を抜かすだろう。

三船敏郎が出演した西部劇映画「レッド・サン」のワン・シーンである。大陸横断鉄道がまっすぐに伸びる荒野に立った姿はなかなかのもの。競演の二大スター、アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンに少しも負けていない。いま改めて観ると、この映画なかなかたいした娯楽大作ではないか。テレンス・ヤング監督は、心から三船敏郎を尊敬していたに違いない。

「かごにのるひとかつぐひとそのまたわらじをつくるひと」(☆1)ということわざがある。

先日の大学院のゼミで、修士課程一年生の映像チームが浅草の「東京銀器」のお店のドキュメンタリーを発表してくれた。学生が「銀器作り」を体験しながら、銀器に対するご主人の思いをお聞きした。この仕事をはじめたばかりのころのご主人は、銀器というのは「裕福な人たちの嗜好品にすぎないのではないか」と考え、この仕事への熱意を失いかけたことがあるという。その時にお母様から聞かされたのがこのことわざだった。

世の中はさまざまな境遇の人たちが持ちつ持たれつして成り立っている。どんな仕事もそれぞれに意味深く、一生懸命打ち込む価値を持っている。そういうことを教えてくれる言葉だ。就職活動で、会社選びに逡巡している若者の背中も押してくれるだろう。

ところで、ドキュメンタリーを制作した当の学生君たちはどのように理解したのだろう。ちょっと心配。まさにいまどき人たちである。彼らの顔を観ていると「駕籠に乗る人じゃなきゃ嫌だー」とか思っている節もあるので。それはそれで、たいへん若者らしい、とも言えるが。


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☆1:駕籠に乗る人担ぐ人そのまた草鞋を作る人


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