勝ったり負けたり
菊も背比べしてる |
あっさりと人間を負かしてしまったAlphaGOだが、そう言えば彼にはすごい先輩がいたのだった。2001年にデビッド・ボーマン船長やフランク・プール博士ら、5人の人間クルーとともにディスカバリー号で土星へ向かったHAL9000(☆1)である。彼は「発見的プログラミング」によって神経ネットワークを自己増殖させるという先進的AIだった。
HALにはミッションへの情熱があった。しかし一方で彼の心は繊細で壊れやすかった。そのために途中で神経症にかかってしまい、任務遂行能力を疑われるようになる。他のコンピュータとの交代をほのめかされたHALは、逆上してクルーの大半を殺してしまった。
HALの実力なら、チェッカーやチェスなどのゲームでの全勝は当然だった。しかしそれではクルーの士気にさわるので、五割しか勝たないようにプログラムされていた。こんな気遣いまでさせられていたのも、病気になる一因だったのかもしれない。
「柳田格之進」という落語がある。武士と町人の二人が、身分の差を超えて碁盤を囲み、相親しむ話だ。志ん朝師匠はこの話のマクラで、「囲碁というものは、ちょうど同じくらいの実力の二人でやるのが一番ですね」と語る。そうでないと第一危険だ。片方の相手が刀を持っている。
カジノのスロットマシンなども、ちょうどよく、だいたい五分五分の勝ち負けになるように出来ているとの話を聞いたことがある。もしも、どちらかが一方的に勝ちっ放しなら、そもそも誰もやらない。世の中、勝ったり負けたりだ。
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☆1:Heuristically programed Algorithmic Computer