オレンジのマイクロバス
映画をはじめて観たあとで、すぐにもう一度観たい、あるいはもう2〜3回は繰り返し観てみたいと思うものがある。「もう一度観たい」という理由は映画によってさまざまだ。スペクタル感あふれる特撮シーンのすごさをもう一度味わいたいという場合もあれば、特撮などとは関係なく、ただただ俳優たちの演技の細々としたニュアンスを味わいたいという場合もある。
「スター・ウォーズ」は前者の第一であって、これまで何度繰り返し観たか知れない。後者の第一は「ミッドナイト・ラン」である。「リトル・ミス・サンシャイン」という映画も僕に取っては後者に属する映画なのだけど、こんなにも繰り返して観るほどとは思わなかった。意外にブラックなところもあるし、ちょっと定番すぎる家族愛ストーリーが甘すぎるようにも思えた。
しかし、先日乗った飛行機の映画プログラムでたまたま再会して、改めてこの映画の良さをストレートに味わった。一人としてまっとうな(欠点の無いという意味で)キャラクターがいないフーヴァー家の家族。
やや太めで食欲旺盛。でもミスコンを目指している主人公のオリーヴ。厭世家の兄ドゥエイン。重度の鬱病の叔父のフランク。すれ違いと喧嘩ばかりの両親。身勝手で下品な祖父。
でも、このメンバーがこのぼろぼろの「フォルクスワーゲン・タイプ2 マイクロバス」に乗って旅をはじめる時、映画のマジックが人生の一瞬のマジックに重なる。うまくエンジンもかからないこの車の存在は、この家族そのものなのだ。ドアもはずれて転げ落ちそうな状態だけど、なんとかかんとかしがみついて走っていくしかない。
この劇用車。撮影では同じ型のものが5台も使われたそうだ。もしろん脚本も素晴らしく、俳優の演技も素晴らしいこの映画。しかし最後に魔法のスパイスをかけたのは、オレンジのこの愛らしいマイクロバスだ。それは間違いないと思うのである。