ネット授業実験
多数の遠隔地同士をむすんでの「音楽授業」を実現するための通信実験を行った。東京工科大学にも音楽の授業(作曲,DAWによる打ち込み)があるが、教室内で30人近くの学生の作品を聴いたり評価したりというのは意外にさばきが難しい。また、通常の音楽スクールにおいても、教室だけでの授業には、一度に教えられる学生数にも限界がある。
ネット回線を使って、遠隔地にいる学生と間で授業が出来れば、学生と先生のやりとりを、もっと柔軟で簡単なものにすることができるだろう。学生にとっても、自分の時間を有効に活用しながら、ポイントを絞った授業を受けられるようになるだろう。学生も先生も、それぞれ自分の空いた時間を活用しながら、効率的に授業に参加できるようになる。
こうしたニーズに応えるために、現在のネットインフラを使ってどれだけのことが可能なのか?「ネットによる遠隔地授業」の可能性をさぐるため、関連技術を持ったプロフェッショナルに集まっていただき、実証実験を行った。
ビデオカメラ(SONY / HDV-FX-7)を繋いでのセッティング
本日の参加者と実験シナリオ
株式会社アストラから川村社長はじめ、技術部門のみなさん / 山中さん / 株式会社コンテンツキッズ から竹下さん / 東京工科大学→:吉岡先生、コーちゃん、マッキー、モックン、タイガー、カワイ君(みなさん長時間、ご協力ありがとうございました)
今回の実証実験では、作詞作曲をテーマにした仮想授業をベースとして、以下のようなシナリオで進めた。
[ A 基本授業と、作詞を想定したシナリオ ]
1:授業開始。先生と生徒のカメラ/音声コミュニケーションを確認。
2:生徒から、パワポデータ(作詞宿題)を提出。
3:先生が、その中からデータを選び、生徒全員に解説、添削。
4:生徒も、自分のパワポデータを修正して、再提出。
5:先生と生徒で、マンツーマンの授業、添削。
6:次回への宿題の説明、授業の終了挨拶。
[ B 作曲を想定したシナリオ ]
1:授業開始。先生と生徒のカメラ/音声コミュニケーションを確認。
2:「Soba」システムから「音ライン」WEBサイトを動かしてみる。
3:生徒がそれぞれ、作曲宿題を「音ライン」にアップロード提出。
4:先生が、その中からデータを選び、生徒全員に解説、演奏実演。
5:その音源を、生徒全員に聴かせる、あるいはひとりだけに聴かせる。
6:生徒も、音源データを修正、再提出。
7:先生と生徒で、マンツーマンの授業、添削。
8:次回への宿題の説明、授業の終了挨拶
1:授業開始。先生と生徒のカメラ/音声コミュニケーションを確認。
2:生徒から、パワポデータ(作詞宿題)を提出。
3:先生が、その中からデータを選び、生徒全員に解説、添削。
4:生徒も、自分のパワポデータを修正して、再提出。
5:先生と生徒で、マンツーマンの授業、添削。
6:次回への宿題の説明、授業の終了挨拶。
[ B 作曲を想定したシナリオ ]
1:授業開始。先生と生徒のカメラ/音声コミュニケーションを確認。
2:「Soba」システムから「音ライン」WEBサイトを動かしてみる。
3:生徒がそれぞれ、作曲宿題を「音ライン」にアップロード提出。
4:先生が、その中からデータを選び、生徒全員に解説、演奏実演。
5:その音源を、生徒全員に聴かせる、あるいはひとりだけに聴かせる。
6:生徒も、音源データを修正、再提出。
7:先生と生徒で、マンツーマンの授業、添削。
8:次回への宿題の説明、授業の終了挨拶
「SOBA」と「音ライン」を同時に立ち上げた画面
各システムの特徴
株式会社アストラ「音(おん)ライン」システムの特徴:
いわば音楽仲間のためのSNSサイトシステムといったものである。Mixiの音楽版とも言える。クローズなグループ構成メンバーが、お互いに楽曲データを部品としてやりとりする中で、みんなで協力して音楽を作っていく。そんなイメージだ。音楽の授業用に開発された専用ソフトではない。しかし、楽曲データをトラックごとに分解して録音・修正したり、メロディーラインに歌詞を加えるなどの機能は、音楽授業への応用可能ではないかと考えた。
株式会社コンテンツキッズ+Sobaによるテレビ会議システム:
テレビ会議システムとして考えれば、iChatやSkypeの高セキュリティーであるとも言える。しかし、映像転送のスピードをオプティマイズする技術に加えて、テレビ会議参加者のそれぞれのデスクトップを、全員でリアルタイムに共有する機能などは非常にユニークだ。たとえば、参加者AのPCにある、パワポデータをみんなで同時に開き、順々に書き込み修正を行うこと、全員で同じWEBページを見る、などの芸当が可能である。この機能はデモを見ていても、何がどうなっているのか不思議なくらいだ。
実証実験の結果
全体の印象:回線スピードやシステムのレスポンスなど、課題はあるものの、今後の調整やシステム改変などによっては、実戦の授業でも役立ちそうな機能があることが分かった。また、現時点では「Soba」の会議システムのデスクトップには、「音ライン」のサイトは呼び出せないという致命的なボトルネックがあることも判明した。「Soba」のシステムでは、パスワードなどの「セキュリティーのかかったサイト」はアクセスできないということ。
1)回線のスピードとカメラ映像(Soba):本日は東京工科大学・研究棟CにあるLANに無線ルーター(AirMac Extream)を接続した環境で行った。5台のPCのうち一台は、有線で使用した。正直なところ、先生と各生徒の間で、同時テレビ会議状態までセットアップするのは、かなり手間がかかるものだった。まだプロトタイプだからとは思うが、ログイン画面を探して、特定のセッションにログインし、全員のカメラ映像を動かすまでには、1時間半ほど時間がかかった。しかも結局、全員のPCにすべての映像(この日はカメラ台数の関係で、3カメのみ)が見られる状況にはならなかった。
(カメラ映像再生スピードについて、WEBカメラではなく、ビデオカメラをFireWireインターフェースを通して接続できるが、この場合はCPUに余計な負担がかかるということも判明した。)
2)デスクトップやアプリの共有(Soba):生徒側のローカルPCにあるパワポデータを、先生側のPCで修正したり、お絵かきソフトに全員で描き込みするといった機能は、素晴らしいものだ。しかし、これはやはり「テレビ会議」という、いわばビジネスシーンでの「打ち合わせ」を想定したものであり、音楽授業への応用には限界を感じる。アクセススピードも「さくさく感」には遠い気がする。また前述のように、せっかくのデスクトップ共有で、アストラの「音ライン」が共有できなかったのは痛かった。
(WEBカメラなどを接続した場合には、データの送付や共有の作業が出来なくなる〔CPUの限界〕ことがあるということも判明した。)
3)SNSサイトでの楽曲共有(音ライン):本日の実験では、いくつかのトラックにわかれた音源データをやりとりする中で、実証を進めた。まず事前に生徒が提出したという想定の音源データをダウンロードしてみる。(mp3クオリティ)この「宿題」は、SNSサイトの特定サーバーに投稿しておいたもので、部外者からはアクセスできないようになっている。この音源データの「ボーカル」だけを消音したり、またそれを「録音し直し」したりする。また「メロディーライン」を聴きながら、それに「歌詞」をあてていくことなども出来た。音楽アーティストによる実際の作詞作曲のプロセスは「作曲→作詞」の順番で進むことが多いという前提で、このシナリオを考えてみた。
今後の課題:まず、先生と生徒とのコミュニケーションをもっとスムーズにすること。音楽教育の現場のニーズをもっと特定して、実践的なカリキュラムへの応用を研究すること。せっかくの「Soba」による「デスクトップ共有/アプリ共有」という機能を、幅広く活用できるよう工夫すること。「音ライン」の作曲工程では、実演による録音だけでなく、Midiデータの打ち込みによる作曲も可能になればありがたい。その他、アイデアしだいでは、未来の音楽教室を先取り実現するのも夢ではないと思う。
本日の実証実験にご協力下さった皆様、本当に有り難うございました。
こんごとも、何卒よろしくお願いいたします。