なぜ給料は上がらない?


先日のブログで「僕たちは、もうデジタルの便利さを手放すことは出来ない」 と書きました。すると、大阪の古い友人から、さっそくのつっこみ。

「デジタルで便利になったのに、なんで僕たちデザイナーの仕事は楽にならないんですか?デジタルで浮いた時間はどこへいったのでしょうか」

そうそう。それそれ。まったくこれが、大きな謎なのだ。デジタル技術が発達して、我々の仕事がものすごくスピードアップしているのに、なぜ、デザイナーの仕事は楽にならないのか。もっとはっきり言うと、なぜデザイナーの給料は上がらなかったのか? むしろ「下がった」と断言する人すらいる。 今日から、この謎にちょっとだけせまってみたい。

デジタルになって、ほんとにデザインの仕事はスピードアップしたのです。いまの若い方たちに説明するのは難しいのですが、とにかく、ものすごくスピードアップしたのです。例えば、雑誌などの印刷物のデザインについて見てみよう。

昔はとにかく1ページ1ページづつの、手作業でした。文字組みだって、印刷屋さんから上がって来た写植文字( ☆1 )を、手で切って貼り込んでたんです。まさに、「切った貼った」の作業。写真のレイアウトなんかもっと大変。ポジフィルムの写真の原板は、別に大事にとっておきながら、そのレイアウト組みだけを、考えていった。ライトテーブルなんかで透かして、ルーペで見たりしながら。

こうした作業のなかで「ページの完成形」は、作業している人間の頭の中にしかない。いまのデジタルソフトでいう「WYSWYG( ☆2 )」ではないので、完成形を画面て確認なんて出来なかった。だからみんな自分の「頭の中だけの完成形」を頼りに作業を進めて行った。この「頭の中の完成形」を持てる人だけが出来る仕事でもあった、と言えます。

それが今では、文字を打つのも、色付けするのも、写真を切り貼りするのも、あっという間。何よりも、完成形のデザインが、そのまま画面上で見られちゃうんだからすごい。当然、デザインのクオリティが、格段に上がりました。カッターで間違って指先を切っちゃったり、机の上がスプレーのりで、ベタベタになったりもしない。

もう、いいことづくめですよね。デザインは良くなる。作業は早くなる。机の上もすっきり綺麗なまま。

だけど、デザイナーの給料は上がらないのは何故なんだ! むしろ、仕事がスピードアップした分だけ、空いた時間に別の仕事をやらされている。むしろその分だけ、給料は下がったとも言える。一体これはどうなっているのだろうか? (つづく)

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☆1:写真植字と言って、文字デザインのネガフィルムから、印画紙に文字を焼き付けたもの。活版印刷の文字に取って代わって普及しました。今でも、題字などの大きな文字には使われているよ。

☆2:What you see is What you got. コンピュータのディスプレイに表示されたものが、印刷物などのデザイン完成形と同じであること。これが今は当たり前なんだけど、昔はそうではなかったんだよ〜!

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