有機物の右巻き左巻き

ルイ・パスツゥールは、コッホと並んで近代細菌学の開祖とされる、19世紀フランスの生化学者です。パスツゥールは若い頃に、先輩であるジャン・パブテスト・ビオーが発見していた「有機化合物における旋光性」について、さらに研究を進めて「酒石酸の性質の解明」という論文を書きました。

( Louis Pasteur photo by Gaspard-Félix Tournachon)

酒石酸というのは、ブドウその他の果物にふくまれている化合物であって、あるきまった旋光性(偏光を通すと、その偏光面が左右どちらかにまわる性質)を持っています。そればかりでなく、もう一つブドウ酸という別種の酒石酸があって、これには旋光性がないということも分かっていました。それはなぜなのか?

これに対してパスツゥールは、「分子自身の構造に何か左と右の違いがあるから」と考えて、酒石酸とブドウ酸の結晶の形について、徹底的に調べたそうです。その結果、彼が発見したのは、酒石酸の結晶を顕微鏡でよく見ると、その形は非対称であることが分かったのです。そればかりか、それらは、みな向きが同じ非対称だったのです。

これは生化学における大発見でした。なぜならば、この実験にはじまる一連の研究で、パスツゥールが発見したのは、「生命界の有機体には、大部分、旋光性があり、これに対して非生物界の物質の溶液には、まったく旋光性がない」ということだからです。つまり、非対称な分子化合物をつくるのは生物だけであって「その向きはみな同じである」ということなのです。パスツゥールは、この発見を「現在のところ無生物物質の化学と生物物質の化学との間にはっきりと引くことのできる唯一の境界線」と述べています。[*1]
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[*1] 「自然界における左と右」( The New Ambidextrous Universe )
訳:坪井忠二、藤井昭彦、小島弘
第12章「いろいろな分子」より
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